民事信託
民事信託は、大切な財産をあなたや家族のために守って活用し、次世代に承継するために利用できる制度です。
民事信託は、大切な財産をあなたや家族のために守って活用し、次世代に承継するために利用できる制度です。
信託とは、一定の目的のために、財産の管理・運用・処分等を、信頼できる人に委ねる制度です。
財産の管理等を委ねる人を「委託者」、財産の管理等を行う人を「受託者」、委託者が受託者に財産の管理等を委ねる目的を「信託目的」、委託者が受託者に管理等を委ねた財産を「信託財産」、信託財産から生じる利益を得る人と「受益者」と呼びます。
委託者は、信託目的を定めて、信託財産の管理・運用・処分等を受託者に委ねます。
受託者は、信託目的に従って、信託財産の管理・運用・処分等を行います。
受益者は、信託財産から生じる利益を受け取ります。委託者自身が受益者になることもできます。
これまでは、信託銀行が信託の主要な担い手となってきましたが、社会経済活動の発展や少子高齢化による信託への新たなニーズに応えるため、2006年に信託法が改正され、一般の方にも信託が利用しやすくなりました。
株式を保有する方が、遺言書を作成せずに亡くなった場合、法定相続人がこの株式を準共有することになります。
例えば、全株式を保有する会社経営者である父が亡くなり、法定相続人である長男と長女が全株式を準共有することとなった場合、長男と長女の間で意見がまとまらないと、議決権行使ができない状態が延々続くことになり、会社の経営に多大な支障が生じることとなります。そこで、委託者を父、受託者を長男、第1次受益者を父、第2受益者を長男と長女とし、会社の全株式を信託財産とする信託を設定するプランが考えられます。そうすることで、父が生きている間は、父の指図によって長男が議決権を行使し、父の判断能力が低下したり、亡くなったりした場合には、長男が自らの判断で議決権を行使することが可能となります。また、長男や長女が亡くなった後の受託者や受益者を長男の孫としておけば、会社の経営権を確実に後継者へと順次承継させることも可能となります。
障がいのある子の親にとって、加齢により自身の判断能力が低下した後や、自身が死亡した後に、誰が子の面倒をみていくのかは切実な問題です。また、子に十分な財産を遺したとしても、子が自身で財産を適切に管理していくことは困難でしょう。
この点、信託を利用することによって、親の生前・死後を通じた財産管理方法をあらかじめ定め、親が亡くなった後に間断なく財産の承継を図ることが可能となります。例えば、父、娘、障がいのある息子の3人家族をモデルケースとした場合、委託者を父、受託者を娘、第1次受益者を父、第2次受益者を障がいのある息子とし、父が所有する収益不動産(賃貸マンション等)を信託財産とする信託を設定するプランが考えられます。そうすることで、父が生きている間は、娘が収益不動産の管理・運用を行い、賃料収入は父が得られるようにして、父自身が、障がいのある息子も面倒をみていくことができます。また、父の判断能力が低下したり、亡くなったりした場合には、間断なく娘が収益不動産の管理・運用を行うことができる上、賃料収入は息子が得られるようにして、生活費や介護費用に充てることができます。もっとも、信託は財産管理の手段に過ぎませんので、長男の介護保険の契約や施設入所契約の締結等の身上監護には対応できません。そのため、法定後見や任意後見制度を組み合わせて制度設計を行う必要があります。
警察庁の発表によると、2018年の特殊詐欺の認知件数は約16,500件、被害総額は約364億円に上ります。そして、被害者数に占める65歳以上の高齢者が占める割合は78%を超えており、高齢者の大切な財産が、心ない犯罪者のターゲットとなっています。また、高齢者の法定相続人の一人が、高齢者に働きかけて自身に有利な遺言書を作成させたり、金銭を無心したりするケースもしばしばみられます。このような場合に、信頼できる親族を受託者とし、高齢者の財産を信託財産として信託を設定することによって、例えば、預金は物理的に信託口座に移動しますし、不動産の名義も受託者に移転しますので、高齢者の財産を犯罪等から未然に防ぐことが可能となります。また、信頼できる親族を受託者として、高齢者を受益者としておけば、本人の判断能力が低下した後も、受託者がスムーズに不動産の管理・運用することが可能となりますし、本人が施設に入所して自宅不動産が不要となった場合には、時機を逃すことなく不動産を処分して、本人の生活費や施設費用に充てることも可能となります。