顧問先からの依頼で、契約書のリーガルチェエックを日常的に行っております。最近、注意しているのが、改正民法により適切でない条項がないかということです。
今回は、売買契約書の担保責任の条項について、改正民法の影響を解説します。
■ 改正前民法における担保責任
売買契約が締結されると、売主はある財産権を買主に移転する義務が生じ、買主はその代金を支払う義務が生じます(民法555条)
売買契約において、目的物が契約で要求された品質を満たしていなかった場合、売買代金は契約で要求された品質を基準に決定されていることから、売主が担保責任を負うことになります。
改正前民法では、売買の目的物に隠れたる瑕疵があったときは、買主は契約の解除または損害賠償請求ができると規定していました(改正前民法570条、566条1項)。
■ 改正民法における契約内容不適合責任
改正民法では、売主の担保責任について契約責任説の立場から新たに整理されました。
「隠れたる瑕疵」という概念ではなく、「契約内容不適合」という概念を用いて、買主は追完請求(目的物の修補、代替物の引渡し等)や代金減額請求をすることができるとの条項が規定されました。
民法第562条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。
民法第563条 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完を催告し、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額請求をすることができる。
■ 民法改正に対応した契約書
従来の売買契約書の「瑕疵」という文言を「契約内容への不適合」に変更します。
そして、契約内容に適合するか否かの判断について、将来の紛争を予防する観点から、売買契約の目的物の種類・品質・数量を特定して契約書の文言に落とし込む必要があります。
特に、「品質」については、当事者の立場によって認識が異なる可能性が高いことから、仕様書を引用するなどして具体的に規定する必要があります。
条項例
甲は、本件物品がその種類、品質又は数量に関して、本契約の内容に適合しない場合には、乙に対し、本件物品の修補、交換、不足分の引渡しまたは代金の減額のうちから一つ又は複数の手段を選択し、請求することができる。
民法改正にともなって、契約書の条項を見直す必要があります。
売買に限らず、請負契約、業務委託契約等においても、改正の影響及び対応を検討すべきです。
これを機会に、取引基本契約書など貴社の契約書を改めて見直すとともに、単なる文言の修正にとどまらず、貴社にとって有利な内容になるよう戦略的なバージョンアップを検討するとよいでしょう。