コンプライアンス・従業員の不祥事

コンプライアンス・従業員の不祥事

近年、コンプライアンス(法令遵守)が極めて重視されるようになっています。
企業は利益を追求するためであっても、違法行為をするようなことがあってはなりません。
法令違反等の企業不祥事によって、社会的批判を浴び、倒産や廃業を余儀なくされ、市場から退場させられた企業は数多く存在します。

最近特に留意すべきなのは、従業員不祥事への対応です。
世間の認識と乖離した従業員の言動は、企業に直接的な損害が生じさせることにとどまらず、SNSの普及によって、企業の社会的信用が低下するリスクが高まっています。

主な対応

コンプライアンスと内部統制システム構築

企業は、従業員の不祥事を未然に防ぐ内部統制システムを構築し、さらに、どのような不祥事が発生したとしても、これに適切に対応し、企業に発生するリスクを最小限に抑えることができるよう準備しておく必要があります。

リベートの不正取得

企業が物品を購入する際、購入担当の従業員が、取引先と結託して、正規のものより高額な代金を請求させて企業に支払わせ、後で取引先からその一部をキックバックしてもらうのが典型的な手法です。

企業側の損害は、正規の代金と実際に請求された代金の差額になりますが、請負契約等本来の代金が交渉で決定される場合、損害がいくらなのかが実務上争点になることがあります。また、企業側の担当者が、発注者という優越的な立場を利用して、下請会社に圧力をかけて、協力を事実上強制している場合もあります。

対応策

上記不正行為は、企業に故意に損害を与えるものであり、悪質性は高く、厳正な懲戒処分を検討する必要があります。
また、従業員の行為は、民法上の不法行為に該当しますので、企業は従業員に対し、損害賠償請求を検討することになります。

企業秘密漏洩・競業行為

企業は、事業を遂行するうえで様々な情報を収集・活用しており、中には技術上の情報、顧客情報、仕入れ値等の情報など、企業の競争力を維持するため、社外に持ち出すことが禁止されている情報があります。企業秘密がいったん外部に流出すると、後になって回収することはおよそ不可能であり、企業活動に深刻な影響を与えます。

従業員は、労働契約に附随して、企業の秘密情報を保持する義務(秘密保持義務)を負っています。また、労働契約の存続中は、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務(競業避止義務)を負っています。

従業員が上記義務に違反して、企業秘密を漏えいして企業が損害を被った場合は、労働契約の債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求を検討することになります。

また、不正競争防止法の営業秘密に該当する場合は、営業秘密侵害罪として刑事罰の対象になる可能性があります。

対応策

企業としては、まず企業秘密の保護対策を講じることが重要です。アクセス権者の制限、持ち出しの困難化、情報の取り扱いルールの策定など、企業秘密を外部に漏らさないように管理する仕組みが重要になります。
さらに、就業規則に退職後の秘密保持義務を含む秘密保持義務規定を定めることや従業員の入社時に秘密保持誓約書を取り付けることも大切です。具体的な文例は当事務所にお問い合わせください。

私生活上の非行行為

勤務時間外の飲酒運転や痴漢行為など、従業員の私生活上の非行行為が問題となることがあります。警察が従業員を逮捕した場合、突然従業員が無断欠勤をした状態になり、家族を通じて企業が事情を知ることになることが多いです。

飲酒運転や痴漢行為など、勤務時間外の私的行為は、直接企業秩序に影響を与えるわけではなく、鉄道やバスなどの輸送機関の事業を営む会社ではない限り、基本的には懲戒処分の対象にはならないのが原則です。

しかし、上記行為が報道されれば、企業に対する社会的信用が低下する可能性は考えられます。また、性犯罪等を行った従業員が企業内に在籍し続けることは、企業内部に混乱をきたすおそれがある場合もあります。

対応策

理論的には、懲戒処分の対象とはならない私生活上の非行行為ですが、労務管理実務上は就業規則に、刑事犯罪により有罪判決を受けたときなどの規定や無断欠勤が14日以上にわたった場合等の規定により懲戒処分を検討することがあります。
ただし、懲戒処分の程度については、慎重に検討する必要があります。懲戒解雇等の重い処分は、後に無効とされるリスクもあることから、降格等労働契約の継続を前提とした懲戒処分を検討すべきです。